21 続キュウコン伝

Mission21 続・キュウコン伝説


 星の停止は防がれ、世界には平和が訪れていた。
各地で破壊されていた時が、少しずつ正常に戻りつつあった。
しかしまだ完全ではないため、探検隊の活動は続いている。
もちろんウィンズも例外ではなく、救助活動を行っていた。
だが、リーダーを失ったウィンズには、以前ほどの活気は無かった――

 そんな、ある朝のこと。
今日もまた、ウィンズ基地では1階の部屋にメンバー達が集まる。
この日は、ルナが一番遅く入ってきた。
「おはよう」
4匹はあいさつを交わす。
朝食を食べることを中断して、ロットはルナの顔を見た。
目が赤く腫れていることに気づく。
――昨日も泣いてたよね……。
レイと別れてからというもの、ルナはすっかり元気をなくしていた。
あれから、誰ひとりとしてルナの笑顔を見ていない。仲間達でさえも。
時限の塔から帰ってきた後、ルナは3日間外に出ることができなかった。
何度も弱点を突かれ、体力を消耗しきっていたのだ。
しかし体が回復しても、心についた傷は全く癒える気配すら見せない。
――だけど。
ロットは、自分の中で思いを巡らせていた。
――あたしだって、本当はすごくつらいんだよ……。

 だが今日の朝食は、静かに終わりはしなかった。
扉をたたく音。来客だ。
「あたしが出てみるよ」
ロットは席を離れ、扉を開けた。
「あーっ!!」
驚きのあまり、声を上げてしまった。
現れた来客、それはかつてウィンズの前に何度となく立ちはだかった
探検隊イジワルズのリーダー――ダークネス。
「ケケッ!おそよう!」
開口一番、皮肉ったあいさつを投げかけてくる。
仲間のルビィとサペントは、今日はここにいないようだった。
「さて、単刀直入に用件を言うぜ」
ダークネスの表情が、ウィンズにとっては見たことないものになった。
「お願いだ。オレを氷雪の霊峰に連れていってくれないか」
いきなりの依頼に、ルナ達は少々戸惑った。
「どういうわけだ?お前が俺達にわざわざ依頼なんて」
グレアに問われ、ダークネスはわけを話す。
「オレはどうしてもキュウコンに会わなくちゃならないんだ」
「キュウコンに?」
かつて、レイ達がキュウコンに会いに行ったことがあった。
あの時の話も、曇りなき真実だった――
「いいよ。探検隊だし、頼まれた依頼は受けなきゃね!」
ロットがそう言った。他のメンバー達も反対はしなかった。
「ケケッ、決まりだな!よろしく頼むぜ!」

 氷雪の霊峰は遠く、一行は数日をかけて長い道のりを歩いた。
道すがら、キュウコン伝説に関わる事件を知らないロットに一通りの説明をした。
レイ達が氷雪の霊峰まで旅をしたことも含めて。
途中では迷う危険の大きい樹氷の森を避け、エレキ平原を経由する。
ルナはおびえたが、特に問題が起きることは無かった。

 北に進むと、辺りには雪原が広がる。
一行は、ここで休憩をとった。
「さーむーいー!!!」
あまりの寒さに、ロットが騒いでいる。
くさタイプは寒さに弱い。
グレアも寒そうにしている。
「こういう時は、レイじゃなくても辛いものが食べたくなるよな」
一行は、基地からフィラの実を持ってきていた。
寒い場所で食べると、体が温まる。
辛いことに変わりはないのだが。
「コノクライナラバ問題ナイ」
「マトマに比べればね……」
だが、その一方で。
「……あれ、ルナ?」
食べるペースが遅くなっているのに、ロットが気付いた。
ルナの目がうるんでいる。
「……レイのこと、思い出しちゃった……」
「……ふう」
ロットは、全力でルナをなぐさめた。

 それから1日後。
一行は氷雪の霊峰を登り、その頂上にたどり着いた。
「おーい、キュウコン!出てこーい!!」
ダークネスが唐突に声を張り上げる。
すると、霊峰に住むキュウコン――イマーゴが現れる。
「久し振りだな、イマーゴ!オレがわかるか?」
返事はすぐに返ってきた。
「……何の用だ?」
ダークネスの次の言葉もすぐに出る。
「何の用だと?オレは貴様のせいでこんな姿になっちまったんだぜ!?」
少しの間。
「……私のせいではない。全てはお前が逃げ出したからだろう?
 人間だった自分からも……そして、サーナイトからもな」
「ど、どういうこと!?」
ルナ達は、イマーゴの言葉に驚きを隠せなかった。
今の言葉は、キュウコン伝説に出てきた人間がダークネスだということを意味する。
一方のダークネスは。
「ケッ、うるせえな!ただ……」
一呼吸入れて、言った。
「お前がサーナイトに……セラフにかけたタタリだがよ、いい加減解いてくれねえかな?」
冷たい空気が流れる。
何も言わないイマーゴに対し、次に言葉を発するのはダークネスだった。
「もし断るようなら……貴様を倒す!
 ……まあ、戦うのはオレじゃなくて後ろにいるヤツらだがな」
「はぁ……」
グレアがため息をついた。他のメンバー達もあきれている。
イマーゴが口を開く。
「残念だが、私を倒すことではタタリは解けないのだ」
これには、さすがのダークネスも仰天した。
「ゲゲッ!なんだと!?」
イマーゴの話が続く。
「しかし……今のお前の気持ち次第では、タタリが解けるかもしれん。
 これを持っていけ」
どこからか、イマーゴが石を取り出す。
キュウコンの9本のしっぽを象ったような石である。
それを、ダークネスに渡す。
「セラフの実体は、闇の洞窟に封印されている。
 お前に渡した九尾の石は、その封印を解除する鍵だ」
ダークネスは納得したような表情をした。
「なるほど、闇の洞窟へ行ってこの石っころを置けばいいのか!
 ケケッ!タタリは解けないだなんて脅かしやがってよう!」
すっかりいつもの調子に戻ったダークネスは、
ウィンズの4匹とともに、その場を去る。

 後には、イマーゴだけが残る。
「ダークネスめ、変わったな……。しかし、まだ揺れている」
その目は、ダークネスが行った方角を見つめている。
「昔のダークネスと、そうでないダークネスが交錯している。
 闇の洞窟で、それに気づけばよいが……」
風が吹いてくる。
イマーゴは、吹雪の中に姿を消した。


 一度ウィンズ基地まで帰った後、
一行は闇の洞窟へ向かうこととなった。
今回もまた、ウィンズはダークネスに付き合う。
「オレのために、セラフは……、いや、何でもない。ただのオレの気まぐれだ」
洞窟の入り口で、ダークネスはそう言った。

 闇の洞窟にも、野生ポケモンが多数生息していた。
しかも、現れるのは正面や天井だけに限らない。
実体を持たないゴーストポケモン達が、壁から突然出現することもある。
壁の中からムウマが現れた時には、至近距離にいたルナは硬直してしまった。
さらに、その両目があやしく光る。
「ゲゲッ!?」
眼光に捉えられたダークネスは、文字通り全く動くことができない。
ムウマのくろいまなざしにかかったのだ。
続いて、浮遊する体の周囲に黒い気がうずまく。
「来る!」
黒い気が伸びる瞬間、ロットのしんくうぎりがムウマを弾き飛ばす。
その攻撃でムウマは攻撃を中断した。
さらにイオンのラスターカノンによって戦いは終わった。
「危なかったな」
そうグレアが言うと、すぐさまダークネスが反応する。
「ケッ!オレは助けてくれだなんて頼んでねえからな!」
ウィンズの4匹は、何も言わなかった。

 ほどなくして、一行は洞窟の最深部に到達する。
そこには小さな、祭壇のようなものがあった。
「やっと着いたな」
「ケケッ!あそこにイマーゴの石を置けばいいんだな?」
ダークネスが祭壇に足早に近づき、石を置く。
「なっ!?」
瞬間、辺りが数回フラッシュした。
しかし、何も起きない。
「あれ?」
ルナは周囲をきょろきょろと見回している。
だが、静まり返っているはずの空間に、かすかな音がするのがわかった。
そして、それはやがてはっきりとした声になる。
「……う……こ……そ……ようこそ、闇の洞窟へ……」
その声は5匹全員に聞こえた。
「誰だお前は!?」
ダークネスが声を張り上げる。
謎の声は、自らを闇の審判と名乗った。話が続く。
「先ほど、封印を開放する鍵が置かれました。
このタタリは、サーナイトにかかっているものですね?」
ほとんどオウム返しのような早さで、ダークネスが切り返す。
「ケケッ、その通りだ!すぐにタタリを解いてくれ!」
少しの間を置いて、声が返ってくる。
「その前に、あなたにその資格があるのかを試させてもらいます。
 これから、いくつかの質問をします。あなたの本当の気持ちを見せてください」
突然、辺りが暗くなっていく。
ダークネスは、ただ祭壇を見ている。
「チャンスは1度きりです。では……行きます」
謎の声の質問が、始まる。

 最初の質問が投げかけられる。
「ダークネスさんは、どうしてこのタタリを解きたいのですか?」
すぐに答えが出た。
「決まってるぜ!セラフを助けたいんだよ!」
一瞬の間を置いて、謎の声が言葉を返す。
「……それは本当でしょうか?ダークネスさんはサーナイトを見捨てたではないですか?」
「……確かに見捨てたぜ」
ダークネスは言葉に詰まったが、切り返す。そして続ける。
「だが昔のことだ。今は違う。
 セラフは今でもオレのことを友達だと言ってくれた」
この言葉に、ルナは過去のことを思い出した。
以前見た不思議な夢。その中でセラフが語っていた。
どこかへ行った、かけがえのない友達がいると。
いつかまた会えると信じていた。
その友達というのは、ここにいるダークネスのことだったのだ。
「なるほど……だからサーナイトを助けたい、と」
謎の声の質問は終わらない。
「……しかし、ダークネスさんは今までずっとサーナイトのことを忘れていたわけですよね?
 それなのに、今さら助けたいというのは虫のいい話ではありませんか?」
「……」
鋭い質問に、ダークネスは言葉を失う。だが。
「そ、そんなこといいじゃないかよ!」
突然、後ろを振り向く。
「なあ、お前ら!」
いきなり話を振られて少し反応が遅れたが、4匹は一応同意する。
そこで、謎の声。
「わかりました……これで質問は終わりです。そして結果を言います」
後ろで見ていた4匹は、ダークネスから隠しきれない緊張を感じ取った。
彼らもまた、謎の声が出す次の言葉を待つ。
「タタリは……消すことができませんでした。
 とても残念ですが、2度はありません」
ルナ達は絶句した。何も、言葉が出てこない。
前にいるダークネスも、凍りついているかのようだった。
「これで、永久に……」
「ま、待ってくれっ!!」
最大限の声で叫んだ。
「頼む!聞いてくれ!!
 確かにオレはセラフを見捨てて逃げ出した。
 タタリが怖くて、自分だけが助かればいいって……そう思ったんだ」
さらに続く。
「しかし、セラフはオレのことを忘れてなかった。
 以前、レイとルナの夢の中で言ってた、また会えると信じてる……と。
 こんなオレでもだ!」
ルナが弾かれたように顔を上げ、ダークネスを後ろから見上げる。
「そういえば、確かにそんな話してた!」
仲間と宿敵――今となってはすでに現れ、そして消えていった――の話をした時に。
夢の中で、セラフはそう話していたのだった。
ダークネスが、声を詰まらせる。
「それに比べて、オレは……オレは、なんて身勝手に生きてきたのだろうか。
 セラフだけじゃねえ、後ろにいるウィンズのヤツらにだって世話になった。
 今わかったぜ……オレに足りなかったものが」
そして、再び叫ぶように言った。

「それは……みんなに対しての、“感謝の気持ち”だ!!!」

 空間全体に、ダークネスの声が響く。
その時、いくつもの光が飛び散った。
「タタリを解く鍵が……開きました」
祭壇の上に光が集まる。
その中から現れたのは……他ならぬ、セラフだった。
ダークネスは無言のまま。
「どうやら、成功したようだな」
後ろから声がする。声の主はイマーゴ。
「やったのか……オレは……?」
イマーゴが頷く。
「タタリは消えたのだ。タタリを解く鍵は、お前の“足りない心”だ。
 それはお前が言った通り、“感謝の気持ち”だったのだ」
語りながら、イマーゴは進み出る。
セラフはまだ目を覚まさない。
「安心しろ、じきに目覚める。だが……」
ダークネスを見据えて言った。
「ただし、お前が昔パートナーだったことは……
 セラフには、わからないだろう……」
周囲が不自然なほどに静まり返った。
ダークネスにとっては厳しい事実。
「……いいんだ、それでも」
彼は、意外なほど穏やかでいる。
「セラフが戻ってきた。それだけで……オレは……」

 一行は、ウィンズ基地に戻ってきた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
と言うセラフに、ダークネスは。
「……よかったな」
さびしさも漂わせながら、一言だけ言った。
それから、ルナのいる方を向く。
「お前らも、付き合ってくれてありがとよ。こいつをやるぜ」
1個の石が渡される。
音符を象ったような石だった。
「歌声の石だ。こいつを持って、願いの洞窟の最深部まで行ってみな。
 そうすりゃ、願いがかなうらしいぜ」
「えっ!?」
4匹は一様に驚いている。
願いがかなう、という話に。
「オレ達イジワルズでも挑んでみたが、あそこは無理だった。厳しすぎるぜ。
 けど、お前らなら行けるかもな。ま、がんばってくれや」
言いながら、ダークネスはルナ達に背を向けて歩き出す。
だが、数歩歩いて立ち止まる。
「……じゃあな」
顔だけ振り向いて、そう言った。

 その日の夜、暗い空には雲が広がり
激しい雨が降り出していた。
そんな夜のウィンズ基地。4匹は1階に集まっていた。
「なんだか大変だったね、今回の依頼は」
「で、もらったのがこの石だな」
4匹が囲むテーブルの上には、ダークネスから受け取った石。
この石を持って願いの洞窟の最深部へ行くと、願いがかなう――という言い伝えがあった。
「サテ、何ヲ願オウカ?」
「それはもちろん」
――レイを、この世界に呼び戻す。
満場一致だった。
「よし、明日早速行こうぜ」
「晴れてくれるといいね」
雨は音を立てて激しく降り続けていた。
その時、窓の外がまぶしく輝き、一筋の光が落ちる。
数秒の間を開けて、大きな音が響いた。
「きゃああっ!!」
外のどこかに雷が落ちた音だった。ルナは飛び上がった。
「こりゃ、近くに落ちたかもな」
グレアが静かに言った。
「眠いし、もう寝ようよ」
ロットはあくびをしている。
他の3匹も、今日はもう寝ることにした。


 深夜。
どこかの森に、ひとつの影がたたずんでいる。
「……いい感じだ……この森もゆがんできている」
それは、とあるポケモンの影だった。
しかし実体が見えない。
「この空間のゆがみをもっと広げることができれば、私の力も増幅する。
 時の破壊には失敗したが……今度こそは……」
影が微妙に動く。
「むっ!誰か来る!またヤツか?
 ……しかし私を捕まえることはできない。絶対にな」
そうつぶやいた瞬間、影は消えていった。

 それからすぐに、別のポケモンが現れる。
先ほどのポケモンとは違い、確かに実体が存在している。
「また、逃げられたわ……。最後はどうしても逃げられてしまう」
雨が降りしきる中、そのポケモンは前を向く。
「いえ。なんとしてでも止めなければ……空間のゆがみを止めなければ……
 世界は大変なことになってしまう!」
そして、空を見上げる。
雨は止む気配を見せずに、延々と降り続ける。
「なんとしてでも……捕まえてみせるわ!」

 物語は、なおも動き続けている――




Mission21。クリア後の話を。
今回は救助隊から、キュウコン伝説の完結編を。
この話は好きなので入れたかったのですが、
そのためにどれだけ構想の手間が増えたことか。
ちなみに、これを入れなかった場合はイジワルズの代わりにドクローズを出していた可能性大。

しかし、話の出来としては……あまり評価できないかな、自分としては。
終わってみれば会話を端折りすぎた感あり。
思っていたより短くなりました。

次回以降、さらに気合いを入れていこう。
寄り道は終わって、探検隊のクリア後話に入ります。

2008.10.22 wrote
2008.10.29 updated



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